特集

2019-08-08 09:00

【インタビュー】共同創業者の選び方/スタートアップへの飛び込み方

【インタビュー】共同創業者の選び方/スタートアップの飛び込み方

ユーグレナやペプチドリームなど数々の技術スタートアップを産み出してきた東京大学。そんな東京大学の学生がプロダクト開発を行うための秘密基地、「本郷テックガレージ」を運営し、さらに起業支援プログラム「Found X」のディレクターとして多くの起業家の支援を行う東京大学産学協創推進本部の馬田隆明さんに共同創業者の選び方やスタートアップに飛び込む際に意識すべきことなどをインタビューさせていただきました。


馬田 隆明 氏

東京大学 産学協創推進本部
カナダ・トロント大学を卒業後、日本マイクロソフトに就職。製品「Microsoft Visual Studio」のプロダクトマネジャー、テクニカルエバンジェリストなどを務め、その後スタートアップ支援を行う部門「Microsoft Ventures」のメンバーとしてスタートアップ支援に従事。2016年6月より現職。本郷テックガレージを運営する傍ら、主に起業家向けの情報発信を行う。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ~最速で事業を育てる環境をデザインする方法 』

 馬田さんがスタートアップの支援をされるバックグラウンド

現在、馬田さんは本郷テックガレージおよびFounderXのディレクターとして、数多くの起業家の応援をされていらっしゃいますが、現在の立ち位置に至ったバックグラウンドやスタートアップ・起業家の支援を行う目的を教えていただけますでしょうか?

マイクロソフト時代に、海外に展開できる日本のスタートアップを本社に推薦するという仕事を担当したことがあります。その際に感じたのは、そもそも実際に海外に認めてもらえるスタートアップが日本には少ないことでした。そんな中で、数は少ないですが、海外でも受け入れてもらえたスタートアップには共通して、テクノロジーの要素がありました。もともと自分自身がテック系のバックグラウンドでもあったので、そうしたところからテクノロジーを持ったスタートアップの支援をしようと思ったことが一つの背景です。

また目的ともつながりますが、FoundXでは「By enabling and spreading innovation, create scholē for all people, and make our society more open and enlightened (イノベーションを可能にし広げることで、ゆとりを生み出し、よりひらかれた社会を作る)」というミッションを掲げています。ゆとりというのは時間的な余裕やお金の余裕であり、それによってもたらされる心の余裕や社会のゆとりも意味します。こうしたゆとりを産み出すためには、これまでに無かった新しいものを作る必要がある。新しいもの、つまりイノベーティブなものを作るためには、様々なしがらみに縛られることの少ないスタートアップという形態が一番適しているという考えがスタートアップを支援する現在の立ち位置にいる理由の一つです。


 スタートアップ共同創業者の見つけ方

そうしたスタートアップ支援の一環として、馬田さんは起業家に向けて数多くの情報発信をされてきました。その資料の中で、2年前に発表された「スタートアップの”共同創業者”を選ぶ技術』は多くの研究チーム共同創業者のバイブルになりつつあると思います。あれから2年が経ちスタートアップを取り巻く環境も変化がありましたが、何かアップデートはありましたか?


アップデートというと、特にエンジニアの領域では顕著ですが、どこも人材不足です。それは大手やメガベンチャーも同じで、非常に良い条件・高い給料が約束されるポジションが市場にはたくさんあふれてきています。こうした中で、特に創業初期のスタートアップが人材争奪戦を戦っていこうと思うと、給料ではどうしても勝てないわけですから、「なんでわざわざこのスタートアップに入るのか?」というビジョナリーな理由がこれまで以上により一層必要になっていることは間違いないと思います。

給料だけではなく、雇用体系も、副業がトレンドになっている中、スタートアップに少しだけ関わる、という選択肢も出てきつつあります。そんな中で、なぜ副業ではなくて転職してきてもらうのか、そしてフルコミットをしてもらえるのかと思うと、やはりこうした「なぜこのスタートアップなのか?」という理由の設定は非常に大事なことですね。こうした理由作りを創業者・スタートアップの皆さんは是非意識していただきたいと思っています。


 ビジネスパーソンのキャリアとしてのスタートアップ参画

今度は逆に、スタートアップにこれから加わろうとするビジネスパーソンについてのお話をさせていただければと思います。

スタートアップに経営メンバーとして加わろうと思ったときに、「果たして自分に経営者としてのスキルが備わっているのかどうか?」というところでお悩みを持たれる方も多くいらっしゃいます。こうした悩みに対してアドバイスをいただけますでしょうか?



その点に関しては、私は「勉強していくしかない。」と思っています。どんなスタートアップに関わるにしろ、必要なこと全てを知っているということなんてありえません。ユニコーン企業と言われているベンチャーのトップですら、企業が成長する限りは常に新しいこと、これまでやったことのないことを求められているはずです。スタートアップに経営者としてかかわる以上、どこかのタイミングで必ずストレッチが求められますので、「知らないからできない、やったことないからできない」ということを言っていること自体、スタートアップに不向きなのかもしれません。もちろん、今あるスキルでバリューを出すべきだとは思いますが、全てを知っている必要はありません。東京大学で受け持っている授業では、アントレプレナーシップの定義を自らのコントロール可能な範囲を越えて好機とリソースを追い求め、社会の課題を解決することにより新たな価値を創造して、それを維持可能な形で提供し続けること」と定めています。これは Harvard Business School の教授である Stevenson の “Entrepreneurship is the pursuit of opportunity beyond the resources you currently control” (Stevenson 1983, 1985, 1990) を参考にしたものです。つまり自分のコントロールできる範囲を超えること、知らないことがあったら周りのリソースを取ってくれば良い、たとえば知っている周りの人に聞けばよいはずです。価値観が合えば飛び込んでみることが大事だと思います。


スタートアップに飛び込むときはセーフティネットを持ちながら

とはいえ、やはり今ある程度の収入やポジションをお持ちの方からすると、スタートアップに飛び込むというのはリスクを感じることも多いと思います。最後にそういう心配を抱えた方に向けてアドバイスをお願いします。

あくまで個人的な意見ですが、私はスタートアップに飛び込むときは「セーフティネットを持っていること」が大切だと思っています。具体的に言うと、①もしものときに自分を助けてくれるコミュニティを持っておくこと②前職との良好な関係性が挙げられると考えています。特に②については、飛び込む前の会社で、「もしうまくいかなかったら戻ってきていいよ」と言ってもらえる関係性になるように、発つ鳥後を濁さないように、きれいに辞めることが大切です。外資系企業では前職への出戻りは一般的なセーフティネットの一つでしたが、最近では日本でも出戻りを食わず嫌いしてはいられないほど人不足が進展していますので、円満退職であれば受け入れてくれるところも多いのではないでしょうか?また、仕事を続けながらサイドプロジェクトとして、まずはスタートアップに関わってみるというのも、一つのセーフティネットと言えます。

まずはそうした小さな取り組みからでも良いので、是非新しい環境に身を置いてみてください。きっと得られるものは大きいはずです。