2020-08-28 13:44

元商社マンが明かす、遠い存在だったスタートアップが「挑戦したい場所」に変わるまで

Co-founders Interview―SAgri株式会社 COO 益田 周 氏



「兄」がきっかけで芽生えたスタートアップへの興味

ー 現在勤めているSAgriについて教えて下さい。


私が働いているSAgri(サグリ)は「AIと衛星データ」を組み合わせて、新しい活用方法の開発・提供をおこなっている企業です。

 

近年、私たちのようなスタートアップでも簡単にAIの技術を使えるようになってきていますが、その割にビックデータである衛星データと組み合わせて解析・活用する企業は少ないです。私達はこれらの技術を使い、各産業の企業、または地方自治体に向けて、衛星データ解析と、ユーザーのニーズに合わせてソリューションを提案しています。

 

例えば今までは足を運んで目視で確認する必要があった土地に対して、私たちの方で衛星データを使って、現地に行かなくとも確認ができるようなモデルを作成し、提供するといった解決方法です。

 

茨城県から委託を受けた事業においては、農業の大きな課題となっている耕作放棄地の状況を衛星データをもとに解析し、把握できるアプリケーションを開発しています。

 

ーもともとその領域には仕事で関わりなどはあったのですか。


ほとんど関わりはありませんね。(笑)

 

私の経歴をざっくりと説明すると、2007年に大学を卒業して新卒で伊藤忠商事という会社に入社しました。そこで11年間、経理や財務、経営企画と幅広いポジションの仕事をしていました。

 

その後、外資系のジョンソン&ジョンソングループの製薬カンパニーであるヤンセンファーマという会社に、経営企画職として転職しました。同社で働いている際にSAgriに出会い、転職した形になります。

 
ーどのようなきっかけでスタートアップに興味を持ち始めたのですか。


スタートアップに興味を持ったきっかけはいくつかありますが、1つは兄の影響です。

 

私の兄のキャリアはソニーに新卒入社し、その後ファーストリテイリングを経てグリーに入り、現在はメルカリUSで働いています。私は大企業に在籍していながら、成長を続けるスタートアップ寄りの企業へ転職するキャリアを知る機会が身近にあったわけです。

 

私自身が伊藤忠商事に勤めているときから、スタートアップの良いところも悪いところも聞けていたので、興味はすごくありました。漠然と「自分もいつかはそんなキャリアを歩みたい」といった想いはありました。

 

「最初はスタートアップに転職する気はなかった」

ーしかし、1社目はスタートアップに転職しませんでしたよね。


そうですね。(笑)最初の転職のときは初めての転職ということもあって、いきなりスタートアップの世界に飛び込むことに恐怖心がありました。それこそ、「会社がつぶれたらどうしよう?」といったレベルのものです。

 

伊藤忠商事から出る際は、スタートアップよりもグローバルビジネスで成功している会社に行ってもっと学びたい意欲が強くありました。そこで、私が選んだのは、まだ日本の市場にも力があって、ジョンソン&ジョンソンの中で当時一番伸びている製薬のヤンセンファーマに入ったという経緯です。

 

ただ、今思うとちょっと視野が狭かったかなとも思います。(笑)

 

ーその恐怖心を超えてスタートアップに転職したきっかけはなんだったのでしょうか?


最初の転職を経て、どこでもやっていけるのではないかという自信が少しだけついたのと、もっとチャレンジしないと人生あとで後悔すると感じていたからです。

 

きっかけはヤンセンファーマにいるときに、たまたま知人経由で紹介されたBeyond Next Venturesのプログラム Innovation Leaders Program(ILP)です。

 

同プログラムは、仕事と並行して疑似的にスタートアップの創業初期を体験できる仕組みになっています。つまり、自分自身の役割が明確に決められていない環境の中で自分はどういう形で役に立てるか、リスクなしで腕試しできるわけです。

 

私の場合は、転職先を探すというよりは、いろいろな企業規模を見たうえで自分の今後のキャリアを明確にしようと思い参加しました。

 

スタートアップと言っても、企業のステージによって企業の内情や動き方が如実に変わります。そういった意味では、このプログラムでは私にとってなかなか接点が無かったアーリーステージのスタートアップに関われるのは魅力の1つでした。

 

ー副業などでもスタートアップに関わりやすくなってきたと感じていますが、その選択肢を取らなかったのはなぜですか?


まず副業にも興味はありましたが、そのチャンスがなかったというのはあります。私の場合、特につながりもなかったですし、大企業にいながら、スタートアップとの接点を持つのは難しかったです。

 

もう1つプログラムと副業との大きな違いは、スタートアップと関わる過程でフォローしてもらえる体制があるかどうかです。Innovation Leaders Programでは、「どのような経験をしたいのか」や「そのためにどのような領域のスタートアップを体験したいのか」について、創業前後のチームと参加者の間にコーディネート役が入ったうえで関わり始めるので、望んだ体験を得られやすくなっています。

 

1つ目の理由とも被りますが、大企業にいるとスタートアップと繋がりを持つ機会が少ないので、関わる候補になる企業がそもそも少ないです。そのため、仮に副業をしようと思っても、具体的な関わり方のイメージを持ちにくい。スタートアップでは、社内の仕組みや組織内における役割が明確になっていない中で働く必要がありますが、大企業にいつつその状態を自分で理解するのは簡単ではありません。

 

そういった意味で自分が持っている経験やスキルを把握した上で、相性のよいスタートアップとマッチングできるこのプログラムを利用した方が、ハードルが低かったわけです。

 

アーリースタートアップに見出した、ジェネラリスト人材の生存戦略

ープログラムに参加してからは、どのような経緯でジョインされたのでしょうか。


プログラムに参加した当初は、自分のバックグラウンド的にレイターステージのスタートアップの方が役に立てると思っていましたが、実際にアーリーステージの企業で働いてみると意外と役立てる部分が多いことがわかってきました。

 

会社にとって足りていない部分を埋めていくのが自分の役割だと思っていたので、会社のSlack(コミュニケーションツール)などに入って内情を理解していくうちに、どんどん改善点が出てくるわけですよ。そもそも1人では抱えきれない量であったり、何から手をつければいいのかもわからないようなカオスな状況の連続でした。

 

しかしそれを経験するうちに、カオスな部分を改善していく作業が多いステージの方が、自分は役に立てるのではと感じ始めました。

 

カオスな状況を改善するための方法を提案し実際に手を動かすうちに、今まで感じたことのなかった「自分の力で会社がよくなってきている実感と手応え」を感じることが多くなり、自分もその状況を楽しんでいることに気づき始めたのです。

 

ーどのような経験やスキルの部分がシードステージでも活かせると思われたのですか?

 

一言でいうとマネジメント経験の部分です。大企業で働いていると、どのように人のリソースを配分し、プロジェクトを回していくのかといった部分は当たり前のようにできるようになっています。しかしアーリーステージの企業では、実はそういった当たり前のことができていないことが少なくありません。

 

また専門性よりも、守備範囲の広さを求められるタスクがふってくることも多いです。

 

そういった状況においては、日本の大企業に多いジェネラリスト型の人材は大きな戦力になるのではないでしょうか。大企業では当たり前のことが何も整っていないシードステージのスタートアップこそ、分野に縛られず動ける人材が活躍できる場所だと私は思っています。

 

大企業で働く多くの人は、「幅広い領域で働いてきたため、専門性がなく別の会社に移ったとき価値を出せるのか不安」と思うこともあるのではないでしょうか。私も伊藤忠商事にいたときは、そう思っていました。

 

しかし実は幅広く何でもこなしてきた経験は、スタートアップにおけるCOOのポジションでは強力な武器になりえます。あくまでイメージですが、社長は特定の領域でS評価を持っていることが求められますが、COOのようなポジションの人材は幅広くオールCが求められると考えていて。(笑)

 

だからこそ、COOポジションはジェネラリスト型人材が向いていると思います。

 

弊社も最近投資家やアライアンス関係で外部の人と関わるようになってきました。そうすると今まで一分野に尖って攻めていた戦略だけではなく、対外的な守りが求められる局面も増えてきます。

 

そして企業が成長し、企業対企業の付き合いが増えてくるほど大企業で培った幅広く対応できる力が役に立ってくると感じています。

 

入社をいきなり決める必要はない

一オファーをもらってからどのような経緯で入社を決めたのですか。


SAgriに入るまでに、半年間ほど本業が忙しい時は関わらないときもあったりと曖昧な立場で転職活動も続けながら関わっていました。

 

そんなとき、ある日突然「チームに入ってもらいたい」と言われたんですよ。後でなぜそのタイミングだったのかを聞いたところ、私に家族がいたので、報酬を用意できるようになるまで待っていたそうです。

 

しかしそれまで、自分が入社をするんだという確たる気持ちを持たずに関わっていたので、すぐに返事をすることができませんでした。またジョインすることを考えたときに、自分ひとりで入社後に期待されている役割を担うのは無理だなとも感じていました。

 

そんなときに、ブロダクトを同じく展開しているインドでも連続起業家のメンバーを、私と同時に採用する話が出てきて。

 

インドに出張をして、そのメンバーとひざを突き合わせて、話をしたことが最終的には意思決定をするうえで大きなきっかけになりました。

 

ーインドに仕事を休んでいくとなると、その段階では転職を前向きに考えている段階だと思います。短期間で、候補外から一転し入社の意思を固められたのですね。

 

企業の成長速度が早かったことも、短期間で入社を考えるほどの心境が変化した理由だったと思います。

 

私が関わり始めたころは資金的にも余裕がなく、やりたいことがあってもできないことの方が多い、企業として粗削りの状態でした。

 

しかしその後、私たちも補助金の採択を受けることができ始めていた。それによって、大きく事業が前進した感覚がありました。

一例では、宇宙ビジネスを絡めた企業向けのプログラムが茨城県であり、そこで県の委託事業として受け取った資金を使い、一気に構想段階だったプロジェクトを進めることができました。私たちが提供する新しいアプリケーション「ACTABA(アクタバ)」も、その際に開発できました。

 

その結果、日経新聞に大きく取り上げてもらい、いままで全く接点のなかった企業からアライアンスや投資を含めたお話が急激に増えました。

 

そこからは、支援事業や補助金で開発したプロダクトを活かして次の補助金やプログラムを取りに行く。そんなプラスのサイクルが回り始め、最初の支援事業を受けてから半年で事業を推進するスピードが大きく変わりました。

 

半年という短期間で自社の実力や関わる人が変わり、会社のステージも大きく変わってきている。この状況は大企業にいる状態では経験できない。そして自分がその変化の起点であり、中にいるという状況の面白さを短期間で経験できたからこそ、いつの間にか転職先の候補としてあがってきたのではないでしょうか。

 

ープログラムに参加してどのような人におすすめしたいですか?

 

この記事を呼んでいる人の中で、スタートアップに少しでも興味のある方は、一度Beyond Next Venturesのプログラムへの参加を検討してみても損はないと思います。

 

このプログラムの特徴でもある、企業と応募者側のニーズがうまくマッチした上で一緒に働ける状況は理想的な状態です。

 

ただこのプログラムは、いい意味で「自由さ」も同時に与えられます。そのため、何やればいいのか指示待ちのスタンスで関わってみたい方には合わないかもしれません。最初の入口は提供してもらえますが、その後の関わり方や価値の出し方は参加者に基本的に任されます。

 

プログラムを通してメンターや関係者の方が手厚くサポートをしてはくれますが、あくまでもサポートに過ぎません。目的や意欲をもって参加しなければ、「なんとなくプログラムに参加したけれどただ面倒なだけだった」「疑似体験ができると言っていたが、組織の中に全然入れなかった」となってしまう可能性が高い。

 

1つの基準として、参加する前にざっくりとスタートアップ内における自分のポジショニングや目的意識を明確にしたうえで参加すれば有意義な時間になると思います。

 

SAgriでも人材を募集中なので、この記事の内容を呼んで興味がある方はぜひこちらからご連絡いただければ嬉しいです。