特集

2019-12-16 09:00

研究所150箇所、研究者2万人の衝撃。つくば市長が挑む「スタートアップ都市」への変貌

「日本の競争力が落ちている」

世論を始め、至るところでそのような声を聞くことが多くなった。

しかしそんな中、「150に近い研究機関を有し、2万人の研究者がいる」国内屈指の成長ポテンシャルを秘めた都市があるのはご存知だろうか。

茨城県つくば市だ。野村総合研究所の調査「成長可能性都市ランキング」でTOP10に入るなど、その可能性を認められている同市は、ここ数年一気に成長へのアクセルを踏んでいる。

とくに市内に存在する研究所の技術を活かしたスタートアップの創出に力を入れる。

今回は市長として最前線でその指揮をとる、五十嵐 立青氏にその戦略を伺った。


技術系スタートアップの「死の谷」を越えるための提携

―なぜ今回Co-founders事業との提携に至ったのか。

昨年12月に「つくば市スタートアップ戦略」を発表してからスピード感を意識して多くの支援策をおこなっていますが、特に筑波研究学園都市が持つ研究・技術・事業シーズを社会に実装し、社会問題の解決や革新的な技術開発を進めるためにスタートアップエコシステムの構築に力を入れています。



五十嵐 立青(いがらし・たつお)/ 1978年生まれ。筑波大学国際総合学類、ロンドン大学 UCL公共政策研究所修士課程、筑波大学大学院人文社会科学研究科修了、博士(国際政治経済学)。つくば市議を経て、2016年よりつくば市長。いがらしコーチングオフィス代表として経営層にコーチングプログラムを提供、株式会社コーチ・エィにおいては公共部門を立ち上げ自治体向けのリーダーシップ開発プログラム推進。地域では農場「ごきげんファーム」を設立、100名ほどの障害のあるスタッフが農業で働く場をつくる(現在は代表退任)。 第20American Council for Young Political Leaders、第2German-Japanese Young Leaders Forum、第20New Generation Seminar等の国際プログラムでの日本代表。1回マニフェスト大賞最優秀成果賞ノミネート、第11回マニフェスト大賞首長部門優秀賞受賞。


しかし、取り組みを進める中であらためて見えてきた課題が、テクノロジー系スタートアップでは経営者人材を確保することに非常に苦労をしているという点です。またそのような課題に対して、国内で支援している機関も少ないのが現状です。

一方で、Beyond Next Ventures株式会社(以下、BNV社)は、起業家と共にポテンシャルのある技術シーズの事業化を目指してベンチャーキャピタル業をされており、その一環として、日本初となる大学・研究機関等の技術シーズ及び研究者と経営人材のマッチングに特化した共同創業者マッチングサービス「Co-founders」を開始されました。

 また、BNV社はつくば発のスタートアップへの投資もしており、つくば市の状況もよくわかっていらっしゃいますし、両社で連携しお互いの強みを活用できれば、技術系スタートアップの成功率を上げられると考え今年7月に連携協定を結びました。


つくばはグローバルなスタートアップエコシステムになれる

―そもそもなぜスタートアップ支援に力を入れているのか。


市長に就任してから、スタートアップが持つ可能性を引き出すために20184月に「スタートアップ推進室」を設置し、起業経験を数回持つ「スタートアップ推進監」を民間から採用しました。

また、「つくば市スタートアップ戦略」として潜在的起業希望期からレイターステージまで24の施策も設定しました。具体的には、スタートアップ推進の拠点となる「つくばスタートアップパーク」の整備や外国人就労ビザのサポート、社会実装トライアルの支援などがあります。

では、なぜここまでスタートアップ支援に自治体として力をいれるのか。その大きな理由は、つくばは全国の自治体の中でもスタートアップ都市としてのポテンシャルが非常に高いと考えているからです。

ご存知の方も多いと思いますが、つくばには約150の研究機関と約2万人の研究者がおり、世界に大きなインパクトを与えうるアイディアが多く眠っている街です。

これだけ人材とアイディアが狭いエリアに集積した都市は、国内外を見ても数えるほどしかないと投資家からも評価されています。

起業という切り口でみても、筑波大学は東大、京大に次いで国内で3番目にベンチャー創業数が多く、学生起業も盛んです。

今私たちには、目に見える未来予想図があります。だからこそ、一般的な起業支援で終わらず形にすることが重要です。先日、出張で赤いシリコンバレーとも言われている中国の深圳にいきました。そこで先方の副市長から記念品をいただいたときに、今後のつくばのヒントとなることがありました。




記念品は深圳市のスタートアップが開発したヘルスケアデバイスでした。自治体の記念品というと、額に入った盾や写真、置物などが多い。でも、彼らは自分たちのまちのスタートアップがつくった最先端のものを記念品に選んでいるのです。

自治体内で産業を起こし、外に発信していくことがつくば市として目指す形ですが、残念ながらまだこの段階には達していません。

しかし、差分を感じると同時に実現への希望も感じました。

つくばには、研究機関や大学など技術系「研究シーズ」、すなわち世界に大きくインパクトをもたらす可能性があるディープテックが数多くあります。

そして、すでにロボットスーツのサイバーダイン社や睡眠医療に特化したS’UIMIN(スイミン)社、AIで誤嚥性肺炎を防ぐPLIMES社(プライムス)、低軌道衛星向け通信インフラを手掛けるワープスペース社など、ロボット、AI、宇宙などの高度なテクノロジーを活かしたスタートアップが出てきています。産業化の芽は少しずつですが育っています。

そしてこれらの動きにより、つくばに興味を持ってくださる人も増えていると感じています。

今年7月に虎ノ門Venture Caféで、つくばのスタートアップエコシステムを紹介するイベント「Tsukuba Startup Night 2019」を開催しました。そのイベントに500名を超える方の参加があり、これはそれまで開催されたイベントの中で最も多い参加人数だったそうです。

都内でも、つくばのスタートアップエコシステムへの関心を持ってもらえていることは大きな意味を持っていると思います。

 

つくば市は2つの「宿題」がある

―今回のBNVとの提携を踏まえた上でどのような課題を解決したいですか。

つくばには、2つの解くべき宿題が今あります。

1つ目は、市民にテクノロジーの恩恵をもっと感じてもらえる環境をつくることであり、2つ目が先程お話したとおりテクノロジー系スタートアップが経営者人材を確保することを可能にするなどスタートアップが成長しやすい環境をつくることです。

いくら有望な技術や人材がいたとしても、市民がその恩恵を受けていると感じられなければ意味がありません。

またテクノロジーを社会や様々な環境に役立たせることへの一翼を担うことが、世界有数の研究学園都市であるつくばの責務だと考えています。



しかし、2年に一度実施している市民意識調査では、「つくばが「科学のまち」であることの恩恵を感じることがありますか。」という質問に「ない、あまりない」と回答した人が半数を超えていて、この結果には非常に危機感をもっています。

科学技術が市民の生活に役立つことは間違いありません。だからこそ、科学技術の社会実装によってその恩恵を市民に身近に感じてもらうためにも、テクノロジーの製品化・サービス化が重要です。

ではそのために何が必要か。欠かせないのが、テクノロジーと事業化のギャップを埋めるための経営や資金調達の専門知識です。 

いかに素晴らしいテクノロジーをもっていても、それを適切に社会実装できる形にできなければ世の中に還元することはできません。

しかしそれらの知識を1から1人で学ぶ必要があるとは思いません。

すべてを1人でやるよりもすでに経営などの専門知識をもっている「仲間」を見つけ、協業する。これが素早く事業化し成功率を上げる鍵になるのではないでしょうか。

今回提携させていただいたBeyond Next Venturesが提供するCo-founders事業は、国内初の研究シーズと経営シーズをマッチングさせる事業です。

そして、つくばには研究シーズ保持者やスタートアップの土壌がすでにある。

今回のコラボレーションを通して、参加者同士で化学反応がおこりプログラム期間を通して成長し続ける時間になることを期待しています。



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